【要約/感想】人新世の「資本論」(7章〜8章)

今回の記事は人新世の「資本論」の要約/感想の最終、三部目になります。前回と前々回の記事はこちらになりますので、まだ読まれていない方は以下のリンクからどうぞ。

1章ー3章はこちら

4章ー6章はこちら

では、7章から要約していきます。ここが筆者の1番主張したいところであると思います。

第七章 脱成長コミュニズムが世界を救う

では、筆者の主張する未来を作り出すには何が必要になるのでしょうか?いよいよここから本題へと入っていきます。

それをこの章では列挙しています。それは大きく五点にまとめられています。1「使用価値経済への転換」、2「労働時間の短縮」、3「画一的な分業の廃止」、4「生産過程の民主化」、そして5「エッセンシャル・ワークの重視」です。

筆者はこの考え方はマルクスの考えもとにしたが、旧来のマルクス主義者とは目的地点は異なっていると前置きを置いた上でその詳細の説明をしていきます。

1、使用価値経済への転換

ここでのポイントは『生産の目的を商品としての「価値」の増大ではなく、「使用価値」にして、生産を社会的な計画のもとに置くことだと言っています。別の表現を用いれば、GDPの増大を目指すのではなく、人々の基本的ニーズを満たすことを重視するのである。と言っています。

— 人新世の「資本論」 (集英社新書) by 斎藤幸平
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簡単に言えば、ブランドなど見てくれの価値は考えず、実際にそれが使用できること(例えばそれが食べることができたり、人々をリラックスされることができたりなど)が重要ですよということだと思います。

その際注意すべきポイントとして

『その際、生産力を限りなく上げて、人々が欲するならいくらでも生産しようとする消費主義の過ちを、晩年のマルクスならはっきりと批判しただろう。現在のような消費主義とは手を切って、人々の繁栄にとって、より必要なものの生産へと切り替え、同時に、自己抑制していく。』こととしています。

— 人新世の「資本論」 (集英社新書) by 斎藤幸平
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2、労働時間の短縮

労働時間の短縮は今様々な切り口で叫ばれていますが、筆者はこのように述べています。

“二酸化炭素排出量を削減するための生産の減速を、私たちは受け入れるしかない。そして、「排出の罠」で生産力が落ちるからこそ、「使用価値」を生まない意味のない仕事を削減し、ほかの必要な部門に労働力を割り当てることがますます重要になる。”

— 人新世の「資本論」 (集英社新書) by 斎藤幸平
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だからこそ、労働の中身を、充実した、魅力的なものに変えていくことが重要だというマルクスの主張こそが、再評価されないといけないと筆者は続けます。

この認識から、3つ目のポイントを述べています。

3、画一的な分業の廃止

マルクスは「労働がたんに生活のための手段であるだけでなく、労働そのものが第一の生命欲求」にならないといけないと言ったことを引用し、そのためには効率的な分業は廃止し、人間らしい創造的な労働をおこなわないといけないと言います。いくら、労働時間が短縮されても、中身が辛いものであれば、人々はストレス解消に消費的活動に走る危険があるからです。

4、生産過程の民主化

これは前章でも述べられていたことです。労働者たちが共同出資し、生産手段を共同所有し、共同管理する「ワーカーズ・コープ」の考えを普及させる必要があるとしています。そうすれば、資本家や株主に頼らない生産が可能になるとしています。これを行い、労働者や地球に優しい新たな「開放的技術」をコモンとして発展させることを目指せとしています。

5、エッセンシャル・ワークの重視

エッセンシャル・ワークとは人間が生きるために必要な労働のことです。例えば、農業分野や教育や福祉産業などのことです。この手の職業は一般に、機械化が困難です。そして、人間が労働しないといけない部門を、「労働集約型産業」と呼びます。ケア労働などは、その典型です。脱成長コミュニズムは、この労働集約型産業を重視する社会に転換する。その転換によっても、経済は減速していくのだ。

しかし、現在高給をとっているのは、マーケティング、コンサルティング、金融や保険業などであると筆者は訴えます。これらの仕事がなくなっても生きる上でなんの問題も発生させることはないと筆者は言います。つまり、このような仕事よりもエッセンシャル・ワークの重視せよと筆者は行っているのです。

以上をまとめて、筆者はこのように言っています。

“晩年のマルクスが提唱していたのは、生産を「使用価値」重視のものに切り替え、無駄な「価値」の創出につながる生産を減らして、労働時間を短縮することであった。労働者の創造性を奪う分業も減らしていく。それと同時に進めるべきなのが、生産過程の民主化だ。労働者は、生産にまつわる意思決定を民主的に行う。意思決定に時間がかかってもかまわない。また、社会にとって有用で、環境負荷の低いエッセンシャル・ワークの社会的評価を高めていくべきである。  その結果は、経済の減速である。たしかに、資本主義のもとでの競争社会に染まっていると、減速などという事態は受け入れにくい発想だろう。  しかし、利潤最大化と経済成長を無限に追い求める資本主義では、地球環境は守れない。人間も自然も、どちらも資本主義は収奪の対象にしてしまう。そのうえ、人工的希少性によって、資本主義は多くの人々を困窮させるだけである。  それよりも、減速した経済社会をもたらす脱成長コミュニズムの方が、人間の欲求を満たしながら、環境問題に配慮する余地を拡大することができる。生産の民主化と減速によって、人間と自然の物質代謝の「亀裂」を修復していくのだ。  もちろん、これは、電力や水の公営化、社会的所有の拡充、エッセンシャル・ワークの重視、農地改革などを含む、包括的なプロジェクトにならなくてはいけない。”

— 人新世の「資本論」 (集英社新書) by 斎藤幸平

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ここが筆者、及びマルクスの最大の主張であると思います。

そして、この小さい地域活動が世界中のいたるところで見られ、繋がっていくことが大切だとしています。

第八章 気候正義という「梃子」

この章では今までで述べた筆者の主張が実現されている例を示しています。1つは「フィアレス・シティ」という考え方を唱えるスペイン・バルセロナ市とともに活動する各国の自治体の例です。

また、そもそも国家に依存しない参加型民主主義や共同管理の試みの例も挙げています。メキシコ・チアパス州の先住民が起こしたサパティスタの抵抗運動です。

このような運動を参考にして、筆者が述べるような未来を創って行こうと述べています。

今回は筆者の主張をメインにまとめたので、筆者が従来のマルクス主義やソ連と考え方とどこが違うかはあまり述べていません。また、8章のような例の詳細な説明も省いています。もし、その違いや詳細を含めて、より深く知りたいと思う方がおりましたら、購入をおすすめします。

以上、3つの記事に渡り、人新世の資本論の要約を行いました。

この捉え方は明らかに違う!とか私はこんな読み方、捉え方をしました!などコメントもらえれば嬉しいです。


人新世の「資本論」 (集英社新書) [ 斎藤 幸平 ]

読んでいただきありがとうございました!

About the author

衣食住、旅人本に興味がある。アウトプットメインですが読んでいただければありがたいです。

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