この記事では近年注目を集めているCLT建築の海外事例を9つ集めてきました。イギリスや北欧が中心となります。日本の事例は探せば見つかるようになっているけど、海外の事例はどのようなものがあるのか。そもそもがヨーロッパで生まれた技術であるから、その源流のデザインを知りたいという方などにはお勧めできる記事になっているかなと思います。章の最後にはCLT関連の本の紹介もしているので、興味のある方はそちらもご覧ください!
では、早速見ていきましょう。
目次は以下の通りです
1、そもそもCLTって何?
CLTとはCross Laminated Timber(JASでは直交集成板)の略称で、ひき板(ラミナ)を並べた後、繊維方向が直交するように積層接着した木質系材料です。 厚みのある大きな板であり、建築の構造材の他、土木用材、家具などにも使用されています。
引用:日本CLT協会https://clta.jp/clt/#:~:text=CLT%E3%81%A8%E3%81%AFCross%20Laminated,%E3%82%82%E4%BD%BF%E7%94%A8%E3%81%95%E3%82%8C%E3%81%A6%E3%81%84%E3%81%BE%E3%81%99%E3%80%82
建物の軽量化、持続可能な社会への貢献、後期の短縮など、様々なメリット、可能性を秘める材料です。
詳しく利点を知りたい方はこちら↓
発祥はスイスだと言われており、ヨーロッパを中心として普及し始めている新建材です。
そんな新建材を使って海外ではどのような建築が建てられているのか、調べてみましたので、共有したいと思います。
海外事例6つ
2-1 THE OPEN ACADEMY
LOCATION:Norwich, Norfolk
ARCHITECT: Sheppard Robson
まず、紹介するのはイギリスにある学校です。教育施設は木の温もりや自然というイメージからCLTで作られる建築の代表格です。ユニークで革新的な循環型プランは、この地の航空史からインスピレーションを得ているそうです。
メインの建物は、同心円状の3つの帯で構成されており、この学校に2つの側面を与えています。外側のバンドは主な教育施設、2番目のバンドは倉庫やオフィスなどの補助的なスペース、そして内側のバンドは、中央のフォーラムを囲む一連のオープンバルコニーとして積み上げられた主要な通路となっています。長方形のスポーツホール(図面左下)はロタンダ構造でできています。
この学校は、主に耐力のあるCLTで構成されています。本館の構造レイアウトは、耐力壁を環状に配置することで、内部空間の計画に柔軟性を持たせています。9インチのフロアパネルは25フィートに渡り、途切れることなくソフティが付いています。これを超える部分にはグルーラムのダウンスタンドビームを使用しています。
外周部の壁が後退する部分では、集成材の梁が上層階の荷重を壁に伝えています。中央のフォーラムを覆うように、集成材のパネルで形成された緩やかなカーブの屋根は、12のキャンテッドグルーラムアーチで支えられています。円形のルーフライトは木材のソフィを貫通しており、アカデミーの中心部を活気づけています。内装と外装の仕上げは、木材の広範な使用を表現しています。
2-2 ARCADIA NURSERY
ARCHITECT: Malcolm Fraser Architects
LOCATION: Edinburgh, Lothian
ARCADIA NURSERYは、エジンバラ大学のスタッフや、一般の人々が育てる6週間から5歳までの子どもたちに幼児教育を行う施設です。建物は「自由な遊び場(Free Play)」というコンセプトで設計されており、子供たちの自信、独立性、創造性を育むために、年齢層が混ざり合うように計画されているそうです。
年齢層の異なる子供たちのための3つのプレイルームは、中央のフレキシブルなスペースでつながっており、そこには大きなスライディングドアからアクセスできる、創造性に富んだ多目的な遊び場が共有されています。
建物の3つのゾーンは、台形のピラミッド型の屋根によって定義されており、それぞれの大きさと形によって区別されています。赤ちゃんの部屋は居心地の良い家庭用の高さの平屋ですが、年長の子供たちの部屋は背が高く、中二階のスペースが設けられており、空間体験に変化を与えています。
それぞれの屋根は、CLTで構成されており、連続した集成材のリングビームで支えられ、屋根形状が変形するのを抑制しています。CLTは、このような表情豊かな屋根形状に最適な素材であり、下に柱のない空間を作り、異なるレベルの部屋や遊び場を配置することができます。また、この建築のCLTは全体的に露出しているため、温かみのある手触りのインテリアにもなっています。
2-3 STADTHAUS/MURRAY GROVE
LOCATION:London Borough of Hackney
Architects:Waugh Thistleton
この建築はエンジニアウッドを使用した世界で最初の高層ビルであり、完成時には世界で最も高い木造住宅建築物でした。1階のスラブより上の構造全体はCLTパネルで構成されており、壁、床スラブ、リフトコアはすべて無垢材で形成されており、これらがハニカム(蜂の巣)のように一体となって、非常に安定した効率的な建物を実現しています。
建物の形態は、敷地面積を9階建てに拡大したもので、これは計画上の制約によってほぼ決定されたものです。建物全体のレイアウトは、家族向けのユニットと小規模なアパートメントが混在するようになっています。そのために、耐荷重性のあるCLTパネルをパーティウォールや内部の間仕切りとして使用しています。
特徴的なピクセル状のファサードは、2,500枚の3色のパネルで構成されており、建物に落ちる影の様子を表現するために配置されているそうです。
2-4 Puukuokka housing
LOCATION:Jyvaskla, Finland
Architects:Ansai Lassila, OOPEAA
プクオッカの集合住宅は2015年にフィンランディア建築賞(フィンランドの建築学会作品賞のようなもの)に選ばれた建築です。
8階建ての木造アパートが選ばれた理由として、「建築だけでなく人生においても(彼女が)評価する価値を示しているからです。”建築と建設の新しい可能性の探求、人間的な感性、エコロジー的な解決策の探求、生活の質の向上に向けた努力をまとめた、勇気ある野心的な作品です”」と選考委員の一人は述べています。
また、この建築の素晴らしいところは、高品質で持続可能、かつ手頃な価格の住宅を建てるために、プレハブCLTのモジュール構造が採用されていながら、陳腐なデザインになっていないことです。この住宅は、ストーラ・エンソ社が開発したCLT(Cross-Laminated Timber)製のプレハブ式体積モジュールで構成されています。
2-5 Mjøstårnet The Tower of Lake Mjøsa
Architects: Voll Arkitekter
Location: Brumunddal, Norway
Mjøstårnetは、CLTにより古くから続く地方創生問題に対して、新しい解決策を見出すことができる、魅力的なプロジェクトの例だと思います。Mjøstårnetがあるブルムンダルは、オスロの北140kmに位置する人口1万人の小さな街です。敷地は、ノルウェー最大の湖であるミヨサ湖とその周辺を見下ろすブルムンダの川岸にあります。Mjøstårnetという名前は、ノルウェー語で「ミヨサ湖の塔」を意味しています。ブルムンダルの周辺は、林業や木材加工業で有名な地域です
Mjøstårnetは、約3,500m3、約14,000本の木材を使用しています。この約14,000本をブルムンダルの周辺から集めることによって、地場の経済も活性化させることを試みたプロジェクトです。地方創生などにCLTを活用しようと考えている人には調べがいのあるプロジェクトだと思います。
2-6 Carbon12
Location:North Williams Corridor of North Portland
Architect:PATH Architecture,
次に紹介するのは持続的なまちづくりでも度々話題になるポートランドから出てきた建築です。
アメリカでも有数のサステイナビリティを誇るポートランドに、アメリカで最も高いマス・ティンバーとクロス・ラミネイテッド・ティンバー(CLT)のビルが誕生しました。地元のデザインスタジオ、PATH Architectureによって設計されたCarbon12は、高さ85フィートで、8階建ての複合施設と14戸の住宅で構成されています。地震やその他の自然災害に強く、LEEDプラチナ認証を受けた建築物の炭素隔離特性を上回ると言われています。
3、海外事例を探すのにおすすめのサイトやオンラインデータ
3-1 Think-Wood-Publication-100-Projects-UK-CLT
このサイト(PDFデータ)には100種類を超えるイギリスのCLT建築の収められています。このページでも紹介した建築が多く載せされているので、皆さんの調べたい建築用途や規模に合わせて事例を調べてみてください。
https://www.thinkwood.com/wp-content/uploads/2019/08/Think-Wood-Publication-100-Projects-UK-CLT.pdf
3-2 Puuinfo.fi
フィンランドの先端木造建築が一覧で見れるサイトです。イメージとしては先端木造建築特化型の新建築オンラインのような形式で見られます。このサイトのいいところは雑な訳ですが、日本語でも見れるところです。英語やフィンランンド語だとより正確で詳細な情報が得られます。
4、CLT関連の本の紹介
最後にCLT建築に関連する本をいくつかご紹介しておしまいにしたいと思います。
4-1 地方創生の切り札 新たな建築材料CLTとは (「住まいの読本」シリーズ)
この本の魅力的なところなCLTをただの建材として見るのではなく、地方創生、経済活性化の手段の1つとしてみているところです。まちづくり関連の人や林業で地域活性化を行っていきたいと考えている人にはオススメできる本かなと思います。
4-2 建築技術2017年2月号 CLT関連告示と構造設計への活用法(監修:安村基)
この本は前に紹介した本とは異なり、より建築設計、特に構造や法規関連の情報が載っている本です。CLTの構造設計を行う予定といった専門的な方にオススメできる本になっています。
4-3 ディテールの教科書中大規模木造編
こちらも設計者向けの本になっていますが、どちらかというと詳細設計を行う人向けの本になっています。CLTもエンジニアウッドとはいえ、元を辿れば事前素材。上手に扱い、詳細設計をしなければ、腐食など、早期劣化に繋がってしまいます。
それを防ぐための基礎から応用知識まで満載の本ですので、オススメです。
5、最後に
以上、CLTの海外事例からオススメの書籍までみてきました。皆さんの望む情報が載っていれば幸いです。
関連した情報としてこんな記事も挙げていますので、よろしければこちらの方もご覧ください。
ではでは。