書評 絶望の林業 -木造住宅建設費の何割が木材費か知ってますか?-

0、はじめに

この記事では絶望の林業という本の簡単な説明と書評を行っています。この衝撃なタイトルから、一体どのようなことが学べるのか、それを踏まえてどのようなことが今後議論できそうかを書いています。林業や木造建築など、林業と関わっている産業に興味がある人にはお勧めできる記事になっていますので、良かったらご覧下さい。

目次は以下のようになっています。

1、絶望の林業の簡単な紹介
2、特に気になったところの一部引用
3、感想

1、絶望の林業の簡単な紹介

この本の簡単な紹介から入りますが、まず衝撃的なのはこの本のタイトルでしょう。「絶望の林業」、林業に馴染みのない人にとってはタイトル引きの為にこのような題をつけてると思うかもしれません。しかし、この本を読み進めていくとその考えは違っている事に気付きます。林業、および林業と取り巻くあらゆる産業は様々な点において、問題点が多く、構造的に機能不全に陥っているのです。その本はそれがわかるように様々な問題点の例となぜその問題点が起こってしまっているのかの原因にも言及しており、今後の林業を考えるに適した本になっていると思います。

また、本の最終章では筆者が考える林業のあるべき姿や良い事例についても紹介をしているので、単なる批判で終わるのではないところもこの本の魅力的なポイントかと思います。では、次に具体的にどのような点に置いて、問題点が見られるのか、引用を一部見ることで紹介していきたいと思います。

2、特に気になったところの一部引用

近年の林業界の動きは、私の思う改善方向とは真逆の道を選んでいると感じる。その方向は林業界だけでなく、将来の日本の森林や山村地域に致命的な打撃を与えるのではないか、という恐れを抱く。それが絶望へとつながるのだ。

そこで思いついた。現状を俯瞰して絶望するのなら、その絶望をしっかり記すべきではないか。そのうえで現在とは遊離した「希望の林業」を描けないか。p6

つまり現状は、「国産材は外材より安いのに売れない」のである。「安い外材」という言葉自体が嘘になってしまった。p29

消費者にとっては、自分が手にする木材の価格が重要である。いくら原木価格では国産材の方が安くても、流通コストがのることで自分が購入する国産材の板や柱、木工品が外材製より高くなれば「国産材は高い」と思う。そして安い外材で十分だと思うだろう。p30

一般的な木造住宅を建てる際、全体の建築費のうち木材価格が占める割合はどれくらいか考えてほしい。たとえば一戸建て住宅の価格が2000万円だとする。そのうち木材価格はどれぐらいかと、建築業界のことをまったく知らない人に問いかけた。すると七割ぐらい? という答が返ってきた。さすがにのけぞる。何人かに聞いたが、五割以上を占めていると思っている人は珍しくないようだ。通常の家なら200万円、10%程度である。ハウスメーカーの住宅になると5%以下が普通だ。p48

森林組合に相談に行くと「場所や境界線が不明な山は作業できないし、補助金も申請できない」と言われた。ならば自分で境界線を確定しようと思い、隣接している山主を調べようとしたが、個人情報保護のため役所でも名前や住所は教えてもらえない。p54

本当は立木価格が安くなったら木材生産は鈍くなるべきだろう。それで木材流通量が減ると丸太や製材の価格は上がる……という市場原理が働くはずだ。しかし現実には補助金があるので市場原理は働かず、業者は自分たの仕事を得るために伐採を行う。木材価格が安くなったら、余計多く伐って量で稼ごうとする。製材側も補助金で必ず木材が供給されると読むから価格は上げない。p89

建築側との関係にも疑心暗鬼が潜む。以前「顔の見える木材での家づくり」というのが全国に広がった。ここで 「見える顔」とは、山主のことだ。
(中略)
私もそのうちのいくつかを取材している。その際に私は必ず「山の木をいくらで購入しているのですか」と尋ねた。すると驚いたのは、ほとんどが「そのときの市場価格で」と答が返ってきたのである。木材市場の価格に合わせて買取価格を決めたというのだ。市場に出すのと同じ価格では、山主の取り分が増えないではないか。ネットワークに参加することで山主の取り分が増えてこそ、山の健全化に役立つ。p90-91

いずれにしろ、山主、伐採業者、製材業者、工務店、建築家……みんながバラバラで利益を奪い合っているのだ。p92

建築家、そして工務店は、林業家と建主の間の橋渡しをできる位置にいる。しかし、建主の声を山に届ける、山主の声を建主に知らせる、というその役割をはたしているだろうか。p144

もっとも原木からCLTを製造する歩留まりは約15%だという。これは、ちょっとショックな数字だ。ラミナを何枚も張り合わせる際、都合の悪い部分 (たとえば節や傷のある部分)を外し、さらに張り合わす表面をまっ平らにするためカンナがけを繰り返すためだという。複数のラミナの厚さを均一に捕えようとすると歩留まりは悪くなるのだ。p163

そのほか細かい点は省くが、バイオマス発電は総体として二酸化炭素排出抑制に寄与していないと多くの研究者が指摘し始めている。p180

そして「日本の木材は世界一安い」と言われた。日本の木材は安いから買う。品質は関係ない。高い木材は買わない。製材品も高くなるから買わない……これが中国のバイヤーが日本の木材に注目する理由なのだ。p194

3、感想

全体的な感想

以上、一部を引用して見ました。これは書かれていることのほんの一部分にしか過ぎません。更に読み進めていくと現在の日本林業の深刻さがより伝わり、なぜそのような現状になってしまっているのかがわかるような本になっています。この本が魅力的なのは、ここがポイントであると思います。多くの林業関係者や林業について少し勉強した学生であれば、現在の日本林業がよくない方向に進んでいるはわかっているかと思います。しかし、それがなぜそのような結果になってしまっているのかを分析、考察をしている人は一般人の中ではあまり、見られません。もちろん、研究者などはそれを必死になって探しているのだと思いますが、その結論が書かれている論文が一般の人の目にされされることはあまり、ありません。この本の筆者は一般の人にも分かりやすい形で「なぜ、今の林業が絶望であるのか」を述べています。筆者は「建築家、そして工務店は、林業家と建主の間の橋渡しをできる位置にいる。しかし、建主の声を山に届ける、山主の声を建主に知らせる、というその役割をはたしているだろうか。」と問うていますが、筆者自身が、この本を通じて、林業家と一般人の間を橋渡しする役割を担っています。それがこの本の大きな魅力の1つではないかと思います。

また、今回引用はしませんでしたが、筆者が希望の林業だと示す例も興味深いものばかりです。タイトルで勘違いしてしまいそうですが、決して、絶望を突きつけるだけの本ではなく、絶望を突き付けながらも、その絶望の原因は何で、どのような解決方法の糸口があるのかまで記されている点は非常に丁寧だと感じました。

また筆者は林業だけでなく、林業に関係する業界、例えば建築業界などにも精通しており、様々な視点から日本の林業、森を見ている点もこの本の魅力の1つだと思います。私自身、建築をかじっていますが、建築に携わっている者でも、いや建築に携わっているからこそ、見えてこない視点も多々あり、林業が少しでも、間接的にでも自分の職業に関わっていると言う人にはお勧めできる本になっていると思います。

今後、議論や展開できたら面白そうだなと思ったところ

最後に私的に気になったポイントを深掘りすると、一部引用した部分、「いずれにしろ、山主、伐採業者、製材業者、工務店、建築家……みんながバラバラで利益を奪い合っているのだ。」「現代の日本では、木材流通がブツ切れになっているため、林業家は自らの山から出した木の使い道を知らず、加工業者もエンドユーザーもその木がどこから来て、どのように育てられかも知らない。だから膨大なロスが発生している。まず情報を共有するシステムが必要となる。」と言う言葉が非常に胸に刺さりました。山主という木材流通の川下から、建築家や消費者などの川下まで、それぞれが短期的な自分の利益のみを考えている。もちろん、それがある意味で資本主義の本質であり、それが社会をここまで成長されてきました。しかし、この既存のステークホルダーがそれぞれ利益をとるという流通プロセスから、流通プロセス全体を考えられ、流通プロセスを変えるゲームチェンジャーが現れてきているのではないでしょうか?それはつまり、IT技術です。もちろん、現在の日本林業の現状を知った上で、ITを導入するのは時期尚早だと思う方や他に直すべき箇所が山ほどあるという方も多くいると思います。確かに今すぐは無理かもしれません。ただ、それを導入して行こうとする意識から全ての林業関係者は初めて行かなければいかないのではないかなと思いました。

これって、根気と資本のいる作業だと思うので、国が主導で行っていくのが一番だとは思うのですが、そうやって国の補助金におんぶりだっこできた結果が今だと思うので、誰ができる人や集団が現れてくれれば林業は良い方向に向かうのではないかなと考えました。

是非、皆さんもこの本を手にとってみて、私の感想に思うところあれば、コメントなどください。

以上です。最後まで読んでいただきありがとうございました。

About the author

衣食住、旅人本に興味がある。アウトプットメインですが読んでいただければありがたいです。

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